ずっと前にBOOK-OFFで100円だったので買ってみた火垂るの墓。映画化された小説の宿命として、その文庫本の表紙が残念なことになるのは世の常。やっぱりこれも表紙を早く変えてほしい。ちなみに、火垂るって通常の変換では変換されないですからね。

野坂昭如と言えば、僕がまだ中学生だった頃、クラスメートのワシズユウスケという男がいきなり「黒の舟歌」をカラオケで歌い始めるというアクシデントに始まり、それ以降は「あぁあのグラサンの人かぁ」というほぼタモリと同一視しかねない認識しか持ってない状態で、小説なんて読んだこともなかった。

で、読んでみたらこれが面白かった。とにかく一つの文章が長く、次の句点どこよ?って感じで最初は読みにくかったんだけど、これも慣れると、散々蛇行した後に句点にすとんと落ちる時に、ぞくっとする効果もあるように思える。

収められている短編全てにおいて、それぞれの主人公は、第二次世界大戦の空襲を経験しており、そこで命を失ったり、命を失わないまでも大きな傷跡が残っている人々。

全体的に長すぎる文章の饒舌な語り口によって、どこかユーモア混じり雰囲気が流れているけど、唯一それがなくなっているのが「死児を育てる」で、他の小説にも見られる複数の時制が同時進行していく仕組みが凄く効果的に出ていたように思う。これの最期はびっくりした。逆火垂るの墓的な。

他の小説も読んでみようっと。

莫言「白檀の刑」

2011.3.7[Mon]

なかなか文庫になっていない莫言だったけれども、ふとAmazonで文庫化されている事を知り、訳ありで手に入れた図書カードを使って手に入れた上下合計800ページの強者。

昔、プロジェクトで一緒だった大連のメンバーに薦めてもらった莫言。すぐに読んだ「赤い高粱」は、中国っぽいやたらに誇張した表現と残忍とも言える登場人物の死に様が、逆に生きるという事に対するポジティブなメッセージととれて、僕はそこが一番気に入っていたのだけれども、この「白檀の刑」からはそのような印象は受ける事が出来なかった。

勿論、違う物語なのだから、そりゃテーマも違うでしょ、というのはあるのかと思うが、じゃぁ何が面白かったのかと聞かれると、正直困る。つまらなくはなかったのだけど、面白くもなかった。話が長過ぎたのだろうか。それとも通勤の電車の中でぶつ切りに読んでいたせいなんだろうか。それとも、読んでる間ずっと、かせきさいだぁの「じゃ、夏なんで」を聞き続けて、それが作品の世界観と一切折り合わないものだったからか。うーん。

日清戦争後に、欧米列強が押し寄せる清末期の頃、ドイツ軍が進める長距離鉄道により土地が分断されようとしている山東省高密県が舞台。ここで諸々の事情からドイツ軍襲撃を実行した英雄、孫丙という男が捕らえられてから「白檀の刑」っていう処刑方法で息絶えるまでのお話。

ちなみに「白檀の刑」というのは、油でつるつるにした白檀で出来た杭を、肛門から内蔵を傷つけないように肩越しまで突き刺して、そのまま生殺しの状態で放置するという半端ないもの、です。

あまりに長い話だったので超要約したけど、この話の中ではまぁ色々な要素が絡み合っているので、人によってつぼは様々だと思う。例えば。

登場人物のキャラ、たってるなぁ、だったり

やっぱ中国ってなんか暑苦しくてスケールでかいわぁ、だったり、

様々な残虐極める処刑の描写にほれぼれしたり、

己を貫き通して処刑されていった強者どもを見て「やっぱ男は死に様イコール生き様だなー」と感じたり、

孫丙の娘と県知事の銭丁の色恋に呆れてみたり、

でも、最初に口づけをするときの描写がやたら格好よかったり、

もっと真面目な人は、本当に清を守ろうとした英雄を、欧米列強の顔色を伺う為に、国として処刑するのってどうなの?って思ったり、

処刑云々の話からやっぱり死刑って微妙だよなーと感じたり、

話を通じて感じる演劇風の雰囲気が面白かったり、

などなど。



色々人によって印象に残るポイントはありそうだけれども、僕は孫丙のお尻に白檀の杭を刺したのが、背景に何のドラマも持たない頭のネジの外れた小甲によるものだったということが、本当に読んでいて無力感を感じたし、現実にはこんななんの葛藤もない死刑執行人っていないんだろうけど、やっぱり処刑つまり死刑ってなんなんだろうって思った。


ただ、総じて上に上げた魅力と思われる点に入り込む事が出来なかったのは残念。なんでだろ?

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