7月末をもって職場のとある女性が職場を離れてしまった。

その女性に一冊の文庫本をお借りしていたのだが、それが「キノの旅」というもので、小説の体を保ちながらより多くのターゲット(特に漫画が好きな読者)を取り込もうとしているのか、合間合間に主人公を含む登場人物の漫画的な挿絵があるのを見て、一気に読む気を失ってからついぞ読むことができなかった。

ただ、出社最終日に結局読んでいないことを悟られてはマズイという焦りから、アドリブで「キノの旅」をでっちあげ強引に読んだ事にした。

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キノはとある剣術の達人の父の元に生まれる。
編み物が好きな母、質実剛健な父、教会で知り合った竹馬の友ピエールに囲まれ、キノはすくすくと育つ。

しかし…そんな平穏な街にも、緑色の血を持つといわれる魔物達の手が伸びる…。

満月の白い光が、キノの街を闇から切り取ってしまったように浮かび上がらせた晩、魔物達はキノの街に襲いかかった!!

キノの父は街一番の剣術の達人ではあったが、魔物の呪縛にとらえられ心臓をえぐられて力尽きてしまう。母もまた魔物に襲われ命を落としてしまう。しかし、母は力尽きる直前に自らの血でキノへメッセージを残していた。その横には母の最期の作品となった編みかけのセーターが横たわっていたのだった。

選ばれし勇者キノ。キャンディの泉へ行きなさい。


目を覚ましたキノはその両親の亡骸とメッセージを見て、それか7日7晩泣き続けた。しかし8日目の朝、街の長老ジャッキーに諭されて、ついにキャンディの泉へと旅立つ事を決める。

しかし、キャンディの泉へは7つの海と13の山々を越えていかねばならない。彼は心のそこに漠として芽生えた不安を、頭を思いっきり振る事で消し去ろうとした。それが勇者キノの最初の行動だった。

今、キノの旅が始まる…。
無事7つの海と13の山々を越える事ができるのか…。
そしてキャンディの泉で彼を待っているものとは…。

これはキノの成長の記録である。

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こんな感じでしょ?とその女性に話したところ、「てーめー、ふざけんな。ちゃんと読め。バカ。」と言われて、やっぱり読まなくてはならなくなってしまった。

A系の先輩が喫煙所でノートPC片手に煙草を吸っていたので、モニターを覗いたところ、お台場の巨大ガンダムのyahooニュース記事が写ってた。

A系の先輩やスーツの先輩と飲みに行くとほぼ100%の確率で、アニメや漫画の話になり、その方面の知識ゼロの僕に対して、

「だから仕事ができないんだよ!!」
「だから作業ミスばかりするんだよ!!」
「義務教育すら受けてねーのカヨ!!」

と説教を繰り返してくださる。というか説教ではなく、もはやいじめであるということは、勘の良い職場の方ならすぐに分かってくれると思う。いや、この際勘の善し悪しは不問で。



しかし、そのお陰で「マグネットコーティング」という仕事に全く役に立たない技術について勉強する事ができたので、僕としては本当に少しだけ感謝したい。

以前お世話になったダンディーな協力会社の方と釣りに行った帰り、アルファロメオのスポーツカーの中で、

「岡くんは休日なにしてるの?」
「うーん。バンドの練習かジョギングですかね」
「読書もしないの?」
「あー。まったくもってしないっす」
「岡くんは休日は何も頭を使う事してないんだね・・・」
「・・・」

という会話の後、お勧めとして教えてくださったのがフリオコルタサルという南米の作家。これを携帯にメモっていて、この間ふと思い出した。

どの作品も少し奇妙。ちょうど「世にも奇妙な物語」などを思い出す感じ。ストーリーにメリハリがあって転から結へのスピード感が凄い。スピード感と書いたけど、確かに多くの作品で主人公は最後は文字通り走り出す。日本語訳も相当良いのか、文章も格好良く読みやすかった。

一番印象深かったのは「南部高速道路」。奇妙な結末という点では変わりはないけど、良い意味で自分の予想を裏切ったラストは、かなり切ない。

「石蹴り遊び」という長編が代表作らしいけど、amazonで検索すると中古しかない。頼むよ。

莫言「赤い高粱」

2009.7.17[Fri]

大連の仕事仲間であるMさんお勧めの作家。大連滞在中にMさんにお勧めの作家を訊ねたところ、作家のリストがメールで送られてきた。そこで莫言が第6位に入ってた。日本語にある漢字で構成された名前だったので、まずは莫言を読んでみる事にした。

本当は「赤い高粱家族」という全5編の短編からなる大長編らしい。現在手に入るのは岩波現代文庫の「赤い高粱」で、これは最初の2編の短編が入ってる。

話の内容は、主人公の祖父が高粱の酒蔵を営みながら、抗日ゲリラとして戦う話が第一章。第2章は祖父と祖母が出会い結婚するくらいの頃の話。

この話もかなりグロテスクな場面があるんだけど、これが先日の倉橋由美子と比べると、こっちは人間の生が終わる瞬間をグロテスクに描く事によって人間の生を浮かび上がらせようとしているように思った。それって人間賛歌なんだろうなって。そう思うと逆に倉橋由美子の殺伐さも凄かったと思ってしまう。

特に第一章は電車の中で泣きそうになってしまった。会社の人がいなくて良かった。

他の「白檀の刑」や「転生夢現」も読んでみたいんだけど、文庫になっていないので誰か僕に買ってください。

30歳を過ぎた文学青年への旅だけれども、なんだかDANDAN恥ずかしくなってきた。

以前「聖少女」という小説を読んで以来、なんとなく倉橋由美子っていう名前が気になっていたので、「スミヤキストQの冒険」という小説を読んでみた。きっと気になっていたのは、倉橋由美子が少し高橋由美子みたいだからだったからだと思う。

さて読んでみたけれども、「もう読書はしない!」という断読?宣言をするくらい徒労感を覚えた。

スミヤキ党員であるQは党の指令により孤島の感化院に潜入して、革命を起こすべく奮闘するも、感化院の中は常軌を逸したものだった…といった内容。

魅力的な人間は出てこないし、色彩豊かな描写も何も無い。ひたすらグロテスクだし、文章はゴツゴツして最後の方は完全に胃もたれして偏頭痛が起きた。

偏頭痛をこらえて最後まで読み進めると、主人公にも段々失望してきて(最初から良いところがあったわけではなかったけど…)、この小説には自分が小説に期待している事が一切盛り込まれていない事が分かった。

倉橋由美子という魔女が「お前…現実逃避したいんだって?だったらさせてあげるよ…」と悪意たっぷりにほくそ笑んでいる気がする。


でも、何故か今思うとかなり面白かった気がしちゃうんだよなぁ…。

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